2015年1月30日金曜日

大会関係者と選手たちが織り成すストーリー。5つの種目の日本一を決定するゲームイベント「Red Bull 5G 2014」観戦レポート(前編)

 「最高の瞬間です」。ぷよぷよテトリスの西側代表、Kamestry選手の勝者インタビューは涙声だった。2年続けてチームを敗北に沈ませてしまったという悔恨から彼はようやく解放されたのだ。まさに3度目の正直で手にした勝利だった。

▲勝者インタビューに答えるKamestry選手(右)

 2014年12月21日に東京・秋葉原のイベントスペース「AKIBA SQUARE」で開かれた「Red Bull 5G 2014」は、東西の予選を勝ち上がってきた5つの種目(ゲーム)の選手たちが東と西の2チームに分かれて雌雄を決する一大ゲームイベントだ。

 そんな大会の熱戦は、しかし会場にいた私にはまるで映画を観ているようだった。「選手たちは皆、1人ひとり異なる人生を歩んできて、それぞれの思いを抱えて大会に臨んでいる」ことが、観戦中にひしひしと伝わってきたからだ。同時に「ゲームで人と対戦できるっていいな」と素直に思った。こんな感覚を持てる大会は今までになかったのではないか。

 以下、レポートを通して今大会の全貌に迫りたいと思う。

目次

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クラブのような会場

 海底のような薄暗い空間を7色のライトが照らし、DJが掛ける軽快なミュージックが聞こえてくる。音楽に合わせて踊っている人もいた。

▲左:会場はまるで海底のよう 右:軽快な音楽をかけるDJ TOSHIKI

 「クラブのような空間を作りたかったんですよ」。会場の入り口でそう打ち明けてくれたのはRed Bull 5G 2014プロジェクトアドバイザーの松井悠氏だ。今大会に至る経緯については、「『ゲームイベントをレッドブルがやる意味って何だろう?』と考えたら、普通のやり方ではいけない気がしたんです。それで2012年のRed Bull 5Gは渋谷のライブハウスで開催しました。今年になって、ようやくゲームの聖地・秋葉原にやってきました」とのことだった。

 秋葉原UDXは電気街口を出て右に広がる巨大な複合施設だ。中にはレストラン街もある。会場のAKIBA SQUAREが2階にあって、入り口には大スクリーンとレッドブル・カー、そして海外FPS「Destiny」の試遊ブースが置かれていた。通りがかりにそれらに目をやりながら、「ここで今何をやってるのかな?」と興味深げな一般の人たちも少なくなかった。


▲秋葉原UDX2階に置かれたRed Bull 5Gの看板

▲左:海外FPS「Destiny」の試遊ブースとカフェ
右:283(ツバサ)のナンバープレートで有名なレッドブル・カー

5ゲームの試遊台

 入り口から入って左手には、Red Bull 5G 2014で採用された5ゲームの試遊台が置いてあった。「グランツーリスモ6」、「ぷよぷよテトリス」、「みんなのゴルフ7」、「ウルトラストリートファイターIV」、「バイキングぽいぽい!!」。「大会で見られるゲームを事前にプレイしておけば、観戦にも熱が入るようになる」という運営の配慮だろう。実際に学生や会社員、親子連れなど幅広い層がプレイに熱中していた。大会を見せるための「下地作り」という点では十分な効果があったようだ。



▲試遊台で大会採用タイトルをプレイする親子連れや学生たち

 試遊台近くには売店があった。置かれているのはRed Bull 5G特製リストバンドと「LOSERS GO HOME(敗者は帰れ)」と書かれた特製Tシャツである。そのシャツを買った3人組の参加者に訊くと、「クールだから買ったのさ」と同じ答えが返ってきた。


▲表に「LOSERS GO HOME」、裏にRed Bull 5Gのロゴが描かれた特製Tシャツ

▲「5G」の2文字が目立つ特製リストバンド

ドキュメントムービー

 大スクリーンに今大会のオープニングムービーが流れたのは、大会開始の午後3時を少し過ぎた頃だった。開催日の直前に公開された、選手たちのドキュメントムービーをまとめた内容である。

Red Bull 5G 2014 Opening

 ファミ通が松井氏に行ったインタビューによると、今年のRed Bull 5Gの方向性は「広げる」だった。深く掘り下げたゲーミングシーンを紹介するのとは別に、「知らない人たちの興味を集めてもらい、横に広げていく」。その方向性を象徴するのがこのドキュメントムービーにほかならない。動画には各ジャンルの選手たちが登場するものの、選手の実力やRed Bull 5Gという大会を誇示する意図はまったく感じられず、生活や対戦のシーンを交えながら「ゲームに対する思い」を淡々と語るだけの内容となっている。



▲大会のオープニングにはドキュメントムービーの映像をまとめた動画が流された

 会場で製作者に話を聞いたところ、このドキュメントムービーには次のような意図が込められているという。

 「たくさんの人たちに、『選手たちがどんな思いを持ってゲームをプレイしているのか』を知ってもらいたいと思っていました。でも、『選手のゲーマーとしての実力』をいくら語ったところで、そのゲームを知らない人には伝わるものがありません。そこで、「彼らがどんなふうに考え、生活し、ゲームと向き合っているのか」を紹介すれば、同じ人間として興味を持ってもらえるんじゃないかと思ったんです」

 たしかにドキュメントムービーを観ると、ゲーマーにも色々な人間がいることが具体的にわかる。「車の整備士を目指している」というグランツーリスモ6の選手、「プロゲーマーになりたいけど、難しいでしょうね」というバイキングぽいぽい!!の選手、「幼い頃に自閉症の兄をいじめたやつらを見返したいと思った」というぷよぷよの選手など、ムービーに出てくる選手たちはいずれも自分のドラマを抱えてゲームと向き合っているのだ。


▲動画で「プロゲーマーになりたいけど、簡単にはなれないと思う」と語る現役高校生・バイキングぽいぽい!!西チームのFALQON選手


▲ドキュメントムービーのオンライン版には「選手の喋りが一部聞き取りにくい」という問題点もあったのだが、会場では字幕が表示されており、観客にはっきりと伝わるようになっていた

選手との距離が近く、観客「席」がない大会

 オープニングムービーの後、MCの佐野文俊氏が「選手の入場です!」と叫び、選手たちが続々と円形のステージに現れた。ステージは会場の中央にあり、選手と観客は手を伸ばせば届きそうなぐらい近い。選手たちはここで観客に囲まれながら試合を行うことになる。


▲西(左・青)と東(右・赤)の選手たち

 松井氏は会場で私に、「観客が一体感を持って参加できるようなイベントにしたい」とも言っていた。その1つが「選手と観客の距離の取り方」だと思う。

 普通のゲームイベントの場合、選手の対戦ブースは観客から遠く離れている。観客が選手のプレイを妨害したり、予期せぬアクシデントを防ぐためだ。しかしその場合は選手の表情等がスクリーンでしか見られないから、選手の緊張や操作する手元などが見えないことも多い。そこで本大会はあえてリスクを取り、選手と観客の距離を近づけた。その結果選手たちが「遠く離れたステージ上の存在」から「間近で見られ、呼吸も感じられる存在」になったという印象だ。


▲中央の対戦ブース

 また、Red Bull 5Gには観客「席」がない。観客は全員立ち見である。席に座るとどうしても「観客」という感じがするから、それも「選手と観客の隔たりをなくしたい」という配慮なのかもしれない。

「敗者の選択肢」が大会にドラマを生む

 しかし、今大会のハイライトは松井氏が舞台で発表した次の言葉にあったと思う。

「ご覧の通り、舞台にはまだ機材が何も置かれていません。今年のRed Bull 5Gでは、『次の種目を何にするか』は、負けた側のチームが決定します!」


▲Red Bull 5Gプロジェクトアドバイザーの松井悠氏(中央)

 一瞬、私は自分の耳を疑った。そんなことを本気でやるつもりなのか。

 Red Bull 5Gの5つの種目に必要な機材のセッティングや選手の数はそれぞれ違う。ウルトラストリートファイターIVならアーケードコントローラーが必要になるし、ぷよぷよテトリスやバイキングぽいぽい!!は2対2のチーム戦だからプレイステーションの台数を増やさなくてはならない。グランツーリスモ6に至っては「コックピット」と呼ばれる車体の形状をしたコントローラーを使う。全長1.5メートルを超えるそのコントローラーはまるで「台座」だ。


▲レーシング部門ではコックピット式のコントローラーを使用するのに対し、ぷよぷよテトリスでは選手が並んでコントローラーを持つ。同じ2対2のチーム戦でも、必要な機材のセッティングはまったく異なるのだ

 運営は種目別にそんな面倒な機材のセッティングをしなければならない。事前に種目の順番を決められるなら「個人戦2種目→チーム戦3種目」というふうに、「似通ったセッティングの種目にして作業を効率化すること」もできるのだが、新ルールでは最悪、「個人戦→チーム戦→個人戦…」のように、全部バラバラのセッティングが必要になる場合がある。

 しかも、種目順を決めていないと、「この機材の次はこの機材」というふうに、事前に順序立てて機材を準備することもできない。「次に何の機材が必要になるか事前わからない」というのは運営スタッフにとっても大きな不安となるはずだ。間違いなく、事前に種目順を決めていた場合に比べて手間がかかる。本来なら15分で済むセッティングが30分になるかもしれない。「セッティングのミスで機材が動かない」といったリスクも増えるだろう。


▲東チームキャプテンのポイガマン選手から昨年のRed Bull 5G優勝旗を受け取る松井氏


▲ステージ上で硬い握手を交わす西チームキャプテンのKamestry選手(左)と東チームキャプテンのポイガマン選手(右)

 しかし、「敗者が次の種目を選択できる」というのは見ている側にとって確かに面白い。「不利な状況で何を選択するか」という部分には選手の思考が反映されるからだ。

 実際、「敗者の決定権」というのは大会の定番である。たとえばStarCraft IIの2本先取の試合では敗者が次のマップを決定でき、Hearthstoneでは勝者が同じデッキを使い続ける中、敗者は別のデッキに変更できる。

 負けている状況で、選手はこんなふうに考える。「あのマップのために用意した戦術で一本取り返そう」「このデッキは今の相手のデッキにはそこまで強くないけど、ほかのデッキには強いから、次の試合を勝てば残りの試合も勝てる可能性が高い」。このような駆け引きが敗者の選択に垣間見え、そこから色々なドラマが生まれていく。その意味で今大会は、「ドラマを見せる」ことにとことん拘っていたのだと思う。Red Bull 5Gの方向性がはっきりと現れた瞬間だった。

大会参加の敷居を下げるゲーム バイキングぽいぽい!!

 最初の種目は昨年敗北した西チームが決定することとなった。西チームキャプテンのKamestry選手は東チームキャプテンのポイガマン選手と硬い握手を交わしてから、第1試合の種目をこう宣言した。「フリージャンルでお願いします!」


▲1回戦目の種目を宣言する西チームキャプテンのKamestry選手

 Kamestry選手はこの理由について、Red Bull 5G公式サイトのレポート記事で「東のFINALS経験者であるバイキーとポイガマンをイベントの熱が上がる前に出させてしまいたかった」と述べている(Red Bull 5G 2014 FINALS 西完勝!Red Bullより引用)。このように、「選択」には必ず選手の思惑が表れるのだ。


▲バイキングぽいぽい!!

 フリージャンル「バイキングぽいぽい!!(原題:When Vikings Attack!)」はイギリスの小さな開発会社「Clever Beans」の第1作目となるゲームだ。創設者のマーティン・トートン氏とアンドリュー・ニュートン氏は「大手開発会社を抜け出して、本当に楽しいオリジナルのゲームを作る」ことをモットーにバイキングぽいぽい!!の開発を続けてきた。

 バイキングぽいぽい!!は現在PlayStation®Storeでダウンロード販売されており、価格は税込み900円。いわゆる「インディーズ(*)」に分類されるゲームである。そんなゲームがRed Bull 5Gのような大規模な大会で採用されるのは、国内ゲーム大会史上でも類を見ない。

(*)大手の開発会社ではなく、志を持つ少人数の集団が開発を手がけるゲームの総称。なお、「どこからどこまでがインディーズなのか」については明確な基準がないので曖昧な言葉でもある
参考:インディーズゲームGAME LIFE Wiki

▲セッティング中の時間にはゲームの概要を解説した画面が流れた。こうした配慮もあり、前回よりも観戦しやすい大会になっていたと思う

 日本で知名度が低く、コミュニティも存在しないこのゲームを種目として採用したのはなぜか。その理由について松井氏は、大会参加の敷居を下げたいという思いがあったと以下のファミ通のインタビューで語っていた。

「(前略)『Red Bull 5Gに出たいんだけど、ハードル高いんだよね』という声がちらほらあったのを思い出したんですよ。
 レッドブルが主催するイベントの中には、神社の参道を自転車で降りるイベントとか、バスケットボールの1on1王者を決める大会などがあるんですけど、実はこれらは誰でも参加できるイベントなんです。
 じゃあゲームのイベントでそういったことが可能か? 例えば『グランツーリスモ』でハンドルコントローラーを揃えたりするのはちょっと難しい。格闘ゲームはコントローラーのプレイヤーもいますけど、アーケードスティックを用意して、何十キャラクターの動きを覚えてというのは若干ハードルが高い。そのエクストリームさをちょっと緩和できるものはないか、と。
 それで、去年、僕の会社の忘年会で『バイキングぽいぽい!!』を買ってみんなで遊んだらとても楽しかったことを思い出して、ソニーさんに相談に行ったんです。担当の方も驚いていたんですけど、ダウンロード販売していて、価格も安くて、PS3でもPS Vitaでも遊べるという敷居の低さは結構アリだなぁと。それに、タッグ戦だとカップルや親子で、見てすぐに理解して遊んでくれるんですね。誰でも何が起きているかわかるというのはいいなと。」(開催は今週末! 東西決戦の地は秋葉原。生で観戦するべきゲーム大会“Red Bull 5G”プロジェクトアドバイザーに聞くファミ通.comより引用)

ジャンルの垣根を越えて激突する両チーム

 対戦する両陣営の選手たちが登場した。東チームはキャプテンのポイガマン選手、バイキー選手のペア「SVB(スーパーバイキングブラザーズ)」と、西チームは高校生1年生のFalqon選手とkatayumi選手によるペア「Gstyle」だ。


▲バイキングぽいぽい!!東チームのポイガマン選手(左)とバイキー選手(右)。各種目の試合開始には対戦する両者のドキュメントムービーが流れる。お互いの心境が見られるのは面白く、観戦にも熱が入る

 東チームのポイガマン選手とバイキー選手は、実はそれぞれサッカーゲーム「FIFA」で2012年と2013年のRed Bull 5Gに出場していた。FIFAの国内トッププレイヤー同士が今回はまったく新しいゲームで手を組んだというわけだ。

 西側のFalqon選手も「最初はFPSに出たかったんですけど、今年は採用されなかったので、バイキングぽいぽい!!に出ることにしました。最初は簡単だと思ったんですけど、実際はとても奥が深くて面白かった」とドキュメントムービーで語っていた。このように、参加の敷居が低いゲームであればまったく異なるジャンルのプレイヤーたちでも一緒に競い合えるのだ。その意味で、バイキングぽいぽい!!の採用は「ジャンルの垣根を取り払った」と言えるのではないだろうか。


▲ファミ通の編集者であり、あらゆるゲームの達人であるブンブン丸氏(左)とMCの佐野文俊氏(右)が実況解説を担当

「わかりやすさ」が人を引き付ける

 松井氏の言葉通り、バイキングぽいぽい!!は見ていてものすごくわかりやすいゲームだった。

 バイキングぽいぽい!!は、「市民の集団を操り、フィールドに点在するオブジェクトを持ち上げ、相手の集団に向かって投げる」ゲームだ。ぶん投げたオブジェクトで相手を1人残らずふっ飛ばせば勝利である。


▲ゲーム開始画面。ここからプレイヤー同士の壮絶な「物の投げ合い」が始まる

 バトルフィールドは1画面にすっぽり収まるので、「各プレイヤーがどこで何をやっているか」は一目瞭然だ。1ゲームの制限時間は1分。時間が切れると、時間が切れると、その時点での体力(集団の数)が多いほうが勝利となる。

 試合が始まった。東のチームが岩を拾って西のチームめがけてぶんなげる。西のチームはそれを紙一重でかわすと同時に、爆弾を広ってシュート! 東チームが吹っ飛んだ。だが、数が減ってもまだ生き残っている。人数が少なくなると破壊力のある重いものは持てないが、足が速くなるので素早い攻撃が可能だ。東チームがフィールドのあちこちを動き回って手当たり次第に物を投げるのを、西チームは懸命に避けていく。制限時間の1分が近づいた。


▲ぶん投げたオブジェクトがヒットすると集団が豪快に吹っ飛ぶ

 人数で勝る西チームは時間切れになれば勝利だ。このまま待っていれば勝てる。と思いきや東側チームの攻撃がクリーンヒット! まさに一瞬の暗転だった。西チームは壊滅し、試合は東側チームの勝利となった。


▲相手の集団をすべて吹き飛せば勝利(以上のゲーム画像には決勝戦のゲームプレイ映像のものを使用)

 こんな緊迫した展開が各ラウンドで続き、観客たちは目を離すことができない。各チームにオブジェクトが命中して吹っ飛ぶ度に、会場からは「おお!」と大歓声が上がる。

 一方で私はその光景を半ば唖然として見つめていた。ほとんど知られていないゲームのはずなのに。「ゲームのわかりやすさ」というのはこんなにも会場を沸かせることができるものなのか。

 3本先取のこの試合は東チームのポイガマン選手とバイキー選手が3:2で大接戦を物した。そんな中私は1人「ゲーム観戦の面白さ」を再発見した気持ちになっていた。

Red Bull 5G 2014 FINALS バイキングぽいぽい!! 試合動画

 Red Bull 5G 2014 Finals:東 1-0 西

Nemukejp「Red Bull 5G 2014」観戦レポート記事リンク

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