2015年1月30日金曜日

大会関係者と選手たちが織り成すストーリー。5つの種目の日本一を決定するゲームイベント「Red Bull 5G 2014」観戦レポート(中編)

 2014年12月21日に東京・秋葉原で開かれた5つの種目の日本一を決定するゲームイベント「Red Bull 5G 2014」観戦レポートの中編です。(前編後編
▲グランツーリスモ6ではコックピット式コントローラーを使用

目次

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ゲームやイベントの楽しみ方は人それぞれ

 「レーシングでお願いします!」 先ほどのゲームを敗北した西側チームキャプテン・Kamestry選手が次の種目を宣言した。グランツーリスモ6。250万本を売り上げた1997年のプレイステーション用レースゲーム「グランツーリスモ」の第6作目である。

 今では当たり前のように思われているが、「自動車メーカーとライセンス契約して実車をゲームに登場させる」というアイデアは1997年当時は時代の先端だった。プロデューサーの山内一典氏は1993年にソニーに入社していち早く企画書を出したのだが、実現には4年の歳月がかかってしまった。それが17年後の今では大会でRed Bullの特別車両が専用コースを走るようになったのだから、時代の流れというのは恐ろしい。


▲会場のスクリーンに表示されたグランツーリスモ6の説明

大会そのものを楽しむ

 グランツーリスモ6に使うコックピット式コントローラーは巨大なのでセッティングには時間がかかっていたようだ。

 観客を退屈させないために、合間の時間には「中学生の頃にストリートファイターIVの全国大会に出場したこともある(*2)」というDJ HANGERが全身を躍動させながら音を刻んでいた。そんなDJ HANGERがかける音楽もまたストリートファイターのBGMだ。彼は「スクラッチ(レコードを逆方向に回転させて音を変化させるDJの技術)」を競うDJの大会「1999 VESTAX WORLD FINAL SINGLE WEAPON JOUST」で世界一を獲得した実績もある。彼の音楽は観客の心を捉えており、中には踊り出してしまう人もいた。この場面だけを見ると本当にクラブのようである。


▲DJが軽快な音楽をかける会場

 会場にはスクリーンの近くに座り込んで大会を見守っている親子連れもいた。そのうちの1人の女の子にカメラを向けると、その子は母親と一緒に「にーっ」と笑ってピースしてくれた。会場は薄暗く、鼓動のような音楽が響く異質な空間だと思うのだが、それにもまったく動じていない様子である。


▲会場の親子連れ

 コアなゲームイベントでは普通、ゲーム好きな父親等に連れてこられた家族は会場の空気に困惑してしまうことも多いのだが、この親子の場合は大会を「家族で一緒に過ごす時間」として楽しんでいるようだった。

 松井氏の言う「広げる」には、「いろんな大会の楽しみ方をしてほしい」という思いも含まれているのではないだろうか。

 今大会はDJやライティング、ドキュメントムービーなどの演出に加え、バイキングぽいぽい!!をはじめとしたわかりやすいゲームを用意することで、観客が「ゲームのコアな部分」だけではなく、「大会そのもの」を楽しめるように配慮していた。先ほどの親子はそんな楽しみ方を象徴していた気がする。

グランツーリスモ6の選手はゲーマーではない?

 東チームの選手はカルソニック選手とほんだ選手、西チームの選手はねぎ選手とアユム選手だ。

 中でもねぎ選手は2013年に「グランツーリスモ5」で西側ファイナリストとして出場したものの、「東側チームのYAM選手に約2秒の差で敗れる」という辛酸を舐めた。今大会では雪辱に燃えているに違いない。

Red Bull 5G 2014 ドキュメントムービー:アユム&ねぎ編

 そんなねぎ選手はドキュメントムービーで、「将来は車の整備士になったり、レースの企画をしたりしたいですね」と語っていた。グランツーリスモ6のほかの選手も、将来は「車関係の仕事に就きたい」と言っている。

 そういう彼らが、私にはとても「ゲーマー」だと思えなかった。

 ほかのゲーム、たとえばHearthstoneでは、「ゲーム好きが転じてプレイするに至った」というプレイヤーが多い。「ゲーム全般が好きだから、噂になってるあのゲームもやってみよう」という具合だ。Hearthstoneと同時に、League of Legendsや格闘ゲームといったゲームをプレイする人もいる。当サイトでインタビューを掲載したWECG日本代表のMaruku0選手も「ドミニオンの世界チャンピオン」という側面がある。

 「ボードゲームが好き」「洋ゲーが好き」といったジャンルの違いはあれど、基本的には「ゲーム好き」であることに変わりないのだ。


▲ねぎ選手とタッグを組む西チームのアユム選手

 ところが、グランツーリスモ6の選手たちはそうではないようだ。ドキュメントムービーでは彼らの誰もが、「父親が車好きで、ゲームを買ってくれたので」「10年ぐらい前にF1を見て、『かっこいいな』って思ったので」というふうに語っている。プレイに使うコントローラーも車体に近いハンドルタイプ。「車好きが転じてグランツーリスモ6をプレイするようになった」という印象が強かった。


▲ドキュメントムービーで「レースの企画の仕事にも興味がありますね」というねぎ選手

 彼らが「噂になってるあのゲームもやってみようかな」と言ってほかのゲームをプレイする姿は、私には想像できない。

 もし環境と機会に恵まれていれば、彼らはF1の選手を目指していたのではないだろうか。そんな気がする。

試合の見せ方の難しさ グランツーリスモ6

 レースゲームは初めて見る人でも簡単にルールがわかるのが大きな特徴だ。

 たとえばデジタルカードゲームのHearthstoneは思いのほか人にルールを説明するのが難しいゲームだ。「カードゲーム」と言うと、トレーディングカードゲームの経験がある人なら遊戯王などのゲームを想像するかもしれないが、そうでない人はポーカーや五目並べといったトランプゲームを想像するかもしれないし、そもそも「ランダムに加わる手札を自由に使ってゲームを有利に進める」という仕組みがわからないかもしれない。「自分で組んだ30枚のデッキを使い、ミニオンを召喚して相手を倒す」などと説明しても、やったことがない人にはイメージできないだろう。

 ところが「車のレース」だと言えば、誰でも「車を走らせてタイムを競う」ことだとわかる。今大会はそのようなゲームを多く採用することで、「知らない人が見ても楽しめる」ように構成しているのだ。


▲グランツーリスモ6試合開始前の写真

重要なシーンをクローズアップして見せることの大切さ

 しかし、今大会のグランツーリスモ6は、正直なところ「ゲーム内で何が起きているのかわからなかった」。

 試合のフォーマットは東のカルソニック選手とほんだ選手、西のねぎ選手とアユム選手による2対2だ。Red Bull 5G用に用意されたという特別なサーキットを4台が同時に走り、各チームの合計タイムを競う。

 観戦には俯瞰視点の観戦機能を使っており、各車両の走りをプログラムが自動で追尾していたようだ。しかし、この俯瞰型観戦機能が曲者である。遠方からゆっくりと映す仕組みだから、各車両の速さが見ている側に伝わってこないのだ。しかも、トップ車両同士の抜き合いといった重要なシーンが途中で切れてしまったり、また、バグなのか、別のシーンに切り替わるとき画面が真っ暗になってしまったり、ということもあった。

Red Bull 5G 2014 FINALS グランツーリスモ6 試合動画

 実際の自動車レースの試合中継を見たことはあるだろうか。以下は2013年にアメリカ・インディアナポリスで行われた、世界最速の自動車レース「インディ500」という大会のハイライト映像である。

2013 Indy 500 Race Highlights

 試合の見せ方が実にうまい。至近距離から映しているから最高速度220kmという速さが伝わってくるし、トップ車両同士の抜き合いなど、重要なシーンはかならずクローズアップされ、実況者が大声を張り上げる。英語の聴き取りが下手な私には何を言っているのかよくわからないが、「今が重要なシーンであること」はわかるから、試合に目が離せなくなる。こうした盛り上げ方はe-sportsタイトルでも、StarCraft IIなどの高速なゲームでよく見られる手法である。

2対2の見せ方の難しさ

 2対2だと、各選手の位置関係を把握するのも大変だった。たとえば、見ていると「ねぎ選手、ミスがありません」という解説が聞こえてきたこともあった。しかし、そのねぎ選手はいったいどの車両なのだろうか。画面に写っている車両は4台ある。車体近くには選手名が表示されているのだが、字が小さいので観客からはよく見えない。「たぶん、先頭を走っている車がねぎ選手なのではないか」と観客は推測するしかない。


▲車両近くには選手名が表示されているが、小さいので観客からはよく見えない

 また、中央のスクリーンの左右には随時、各選手の表情がクローズアップして表示されていた。だが、この選手は誰なのか。名前が表示されていないから誰なのかがわからない。したがって、「今抜かれて悔しそうな顔をしているな」というふうに、選手に感情移入することもできなかった。


▲スクリーンの左右には随時両チームの選手が映されていたものの、名前が出ていないのでどの選手なのかわからなかった

 12月5日(金)にTOKYO MXで放送されたe-sportsの情報番組「ゲームクラブ eスポーツMaX」のグランツーリスモ6の対戦では、「1対1」かつ「画面分割でプレイヤーの視点を表示」することで試合をわかりやすくしていた。

 解説はRed Bull 5G 2014 Finalsと同じ呉圭崇(くれ よしたか)氏であるが、視点が絞られていると、解説もとても聞き取りやすいのがよくわかる。

eスポーツMaX : グランツーリスモ6 「やまどぅーvsYAM」◆3試合目+リプレイ解説

俯瞰視点ではなく選手視点の試合が見たかった

 Red Bull 5G 2014ではときおり、俯瞰視点ではなく選手の視点を表示していたこともあった。ものすごい速度で次々とカーブを曲がっていく光景だ。

 このとき私は画面に目が釘付けになった。すさまじい速度を出しているというのに、選手はまったくミスをしない。1つでも間違えればコースからはみ出て吹っ飛ぶ恐れもあるというのに。心から選手たちを「すごい」と思った。誰にでも伝わる選手の凄さだった。

 だが、そうした選手視点の観戦は全体の2割に満たなかったと思う。「速過ぎて目が疲れる観客もいる」という配慮なのかもしれないが、私自身は選手視点での試合を(ときどき写す選手を変えながら)見ていたかった。

 以下は、キットというグランツーリスモ6の実況プレイヤーによるプレイ動画だ。「選手視点のレースゲームにはつい見入ってしまう魅力がある」ことが皆さんにもわかるのではないかと思う。

Vol.77『グランツーリスモ6』実況プレイ Red Bull 5G 2014 シーズナルイベント

 気づくと、試合はねぎ選手が独走状態になっていたようだ。チームメイトのアユム選手も順当なタイムでゴールし、グランツーリスモ6部門の勝利は西チームの手に贈られた。

 Red Bull 5G 2014 Finals:東 1 - 1 西

「静」の緊張感 みんなのゴルフ6

 第3種目、「みんなのゴルフ6」は今大会で異質のゲームだった。みんなのゴルフ6以外のゲームは超高速なのに、みんなのゴルフ6はターン制。選手も年配のプレイヤーが多く、斬鉄剣選手はなんと43歳だ。

 「このゲームが会場の雰囲気に合うのだろうか?」といささか不安だった。


▲ゲームの先攻と後攻をじゃんけんで決める斬鉄剣選手(左)とVAN選手(右)

 ところが、試合はそんな不安が吹き飛んでしまうほどの盛り上がりを見せた。ゴルフゲームはなんと言っても「わかりやすい」。誰もがルールを知っているスポーツだから、「狙うポイントを定めて風を読み、適度な力でドライバーを振る」という選手たちの工夫がよくわかる。そんな選手たちが狙いをつけて打ったショットがどこに飛ぶのか? 観客は打球に目が離せない。動きが少ないターン制のゲームだが、「考え、集中する」という緊張感は選手も観客もずっと続いていく。だから打球が狙いを外れてあらぬ方向へと飛んでいったときは会場の全員が「ああ!」と落胆するし、逆にパットが決まったときには会場の誰もが拍手するのである。


▲観客に見守られながら試合に臨む両選手


▲風の流れを読みながらパットを狙う瞬間(画像は試合動画より)
 一打一打に観客の感情が揺れ動くその様子に、私はまるで自分が本物のゴルフの試合を見に来ているような気持ちになった。

Red Bull 5G 2014 FINALS みんなのゴルフ 試合動画

観客に「思考の楽しみ」を与える解説

 試合をいっそう盛り上げていたのは、みんなのゴルフ6プロデューサーの小番芳範(こつがい よしのり)氏による解説だった。

 さすがにプロデューサーだけあって、ゲームへの知識はひじょうに深い。「このマップではピラミッドのような障害物を乗り越えれば、一気にホールの近くまで球を飛ばせるんですよ。選手も今、それを狙っているみたいですね」。小番氏はこのように言って、マップの特徴や選手の狙いをわかりやすく観客に伝えていた。

▲「みんなのゴルフ6」のゴルフコースにはスフィンクスやピラミッドといった障害物も登場する

 どちらかというと「盛り上げる」というよりは、観客に「思考の楽しみを与える」という解説だったと思う。

 会場の観客は皆、それぞれ「選手はどんな狙いを持ってしているんだろう」「この場所を狙ってショットを打ったらいいのではないか」というふうに、試合を見ながらいろいろなことを考えている。そんな観客に対して、解説者が大声を張り上げてゲーム内の行動を追いかけていたら、観客の「思考の楽しみ」を邪魔することになってしまう。小番氏はそうではなく、「マップの特徴」や「狙うべきポイント」を伝えて、観客に「思考の材料」を与えているようだった。

 これは特にターン制の戦略ゲームの解説で重要なポイントだろう。Hearthstoneの海外大会や、将棋のタイトル戦、もしくは本物のゴルフでも、解説者は「落ち着いて、ゆっくりと喋っている」ことが多い。



▲ドキュメントムービーで「打つときはあまり計算していない」という斬鉄剣選手

 試合では両者お互いに一歩も譲らない展開となったが、最後に揺るぎない精神力で勝利を物にしたのは斬鉄剣選手だった。43歳の年長ゲーマーの勝利は、多くの社会人ゲーマーに勇気を与えたのではないだろうか。

 Red Bull 5G 2014 Finals:東 1-2 西


▲後がなくなって、次の種目を相談する東チーム

「解説は選手との共同作業」

 ところで、まるでプロのゴルフ解説者のような小番氏の解説だったが、試合後本人に聞くと、意外にも「ゲームの解説経験は無い」と言う。


▲みんなのゴルフ6で解説を担当する小番芳範氏(左)

 では、なぜあそこまでわかりやすく、ゲームにマッチした解説ができたのか。小番氏は今回の解説を振り返って次のように答えてくれた。

 「社内でプレゼンをよくやっているので、その経験が生きていたのかもしれません。私は実際のゴルフもやるのですが、テレビ中継もよく見ているので、テレビのような解説を意識しました。
 実は今回、選手にも解説の声が聞こえていたんです。あまり大きな声で喋りすぎてしまうと選手の思考を乱してしまうので、『邪魔にならないように、要点だけを伝えよう』というふうに考えていました。

 このような解説で会場を盛り上げるのは難しいかな、と感じていたのですが、試合ではVAN選手がすばらしいプレイを見せて観客を大きく沸かせましたね。このように、解説が選手に助けられた部分も多くあったと思います。解説は選手との共同作業でした」

Nemukejp「Red Bull 5G 2014」観戦レポート記事リンク

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